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みなし残業って何ですか?

「みなし残業」ってどんな残業ですか?

転職を検討している会社に「うちにはみなし残業があるよ」と言われました。
みなし残業って何ですか?前の会社ではみなし残業がなかったので、どういうことか分かりません。
みなし残業がある職場では、必ず残業しなければならないのでしょうか?
残業のある仕事への転職することは避けたいのですが、最近ではどの企業もみなし残業を取り入れているんでしょうか。
普通の残業とどう違うのかや、みなし残業のメリットやデメリットを教えていただきたいです。

みなし残業とは

あらかじめ一定の残業時間を想定し、残業する・しないにかかわらず、基本給の中に固定の残業代が含まれている給与制度です。労働時間のうち、1日8時間を超える時間はみなし残業にあたります。

たとえば、出勤時間にオフィスに出社せず、顧客のもとへ直行・訪問する営業職など、会社側で従業員の実働時間を知ることが難しい場合に便利なため、導入されることがあります。
みなし残業は、大きく分けて以下の2つに分類されます。

固定残業代制

固定残業代制とは、実際の労働時間に関わらず、毎月、「一定時間残業をしている」とみなして、はじめから給与に残業代を含める制度です。
この制度を導入している場合、週40時間を超える時間外労働や夜10時~朝5時の割増賃金や、休日出勤して働いた分に対する割増賃金などが給与に含まれています。

ただし、これらの割増賃金は、あらかじめ設定したみなし分であるため、設定よりも時間を超える残業が発生した場合、企業はその超過分の残業代を、給与とは別に支払わなくてはいけません。

例えば、基本給25万円という求人票に、「固定残業代として法廷時間外の20時間分、3万円を含む」と記載されていた場合、3万円分が固定残業代にあたります。
この場合は、毎月20時間のみなし残業が行われるものとして扱われます。
もしもひと月に20時間以上の残業が発生した場合は、25万円+超過分の賃金が計算されて支払われます。

みなし労働時間制

外回りの多い営業職や社外での業務がメインの運転手、テレワークをしている人など、企業が労働時間を正確に把握することが難しい職種に用いられるのが、みなし労働時間制です。
実際に働いた時間とは関係なく、労働時間をみなしてその分の給与が支払われます。
みなし労働時間制は、さらに3種類に分かれています。

事業場外労働

社外での業務が多い職種に多く利用されるのが、事業場外労働です。
テレワーカーや外回りの多い営業職、旅行会社の添乗員などが適用されます。このような属性の職業では、オフィスに戻ってからの業務もみなし労働時間に含まれます。

専門業務型裁量労働制

会社側が細かく指示・管理しにくく、従業員に任せたほうが効率的に業務を行える職業には、専門業務型裁量労働制が適用される傾向にあります。
例えば、科学研究者や情報処理システム関連、弁護士などの士業、デザイナー、建築士など、19種類の特定専門職が指定されています。

企画業務型裁量労働制

仕事の進め方において、会社が指示するよりも働く人自身に時間配分を任せたほうが成果や貢献に繋がる、または効率的に仕事が進む場合には、こちらの制度が適用されます。
ただし、適用されるのは、経営企画や財務、経理、人事労務、広報など対象業務が限られています。

みなし残業は違法ではない

みなし残業制について、違法や「グレーゾーン」ではないか?という先入観を持たれることがありますが、必ずしもそうではありません。
みなし残業は認められており、労働基準法の要件を満たしていれば、どの企業も導入することができます。

ただし、みなし労働時間制、固定残業代制を導入する場合、従業員に対して労働条件や就業規則をしっかりと示さなくてはなりません。
また、基本給と残業代を明確に分け、規定時間を超過した分は差額を支払うと明確にし、もちろん超過分の支払い実行が求められます。

みなし残業のメリット

みなし残業制度を導入すると、企業と働く人の両方にとってメリットがあります。

働く人が得られるメリット

残業代が基本給に含まれている場合、残業時間を最小限に抑えることができれば、結果的に金銭的メリットに繋がるため、働く側は得をします。
すなわち、業務効率の良い人ほど嬉しい制度ということになります。
残業してもしなくても同じ給与なので、スピーディーに業務を終わらせるよう意識するようにもなり、自分自身の成長に繋がるメリットも得られます。
また、固定の残業代が毎月の給与に含まれるため、残業時間が少ない月でも収入が安定しやすくなります。生活の見通しを立てやすくなり、収入の増減を心配する必要がなくなります。

企業側が得られるメリット

あらかじめ定めた時間内の残業で全従業員が業務を終えることができれば、別途の残業代が発生しません。
残業代を計算する手間がかからず、人件費の見通しも立ちやすくなります。
また、勤務時間内の仕事だけでも残業代を受け取れるため、従業員は定時に上がれるよう仕事を効率的に進めようとします。働く人の意欲向上や成長にも繋がるでしょう。
仕事が遅い、できない人ほど残業代で収入が増えてしまう矛盾を予防できるのもメリットです。

みなし残業のデメリット

前述したように、働く人と企業の双方にメリットのあるみなし残業ですが、デメリットも存在します。
しっかりと理解した上で導入しないと、思わぬトラブルが起こったり訴訟に発展したりするリスクも孕んでいるため、十分な注意が必要です。
みなし残業で考えられるリスクやデメリットには、以下のようなことがあります。

残業なしでも残業代の支払いが発生する

従業員の労働時間がみなし残業時間を下回っていても、毎月一定の残業代は支給しなくてはなりません。
場合によっては、みなし残業制度の導入以前よりも人件費が高くなってしまうケースもあります。
どれだけのスタッフが平均して毎月何時間残業しているのか、残業が見込まれる部署や業務か、また、従業員の給与計算にどれだけのコストがかかっているかをしっかりと見極めた上で、導入を検討することが大切です。

「残業が強制される」という誤解を生む

みなし残業制度は、スタッフ全員が「残業をしなければならない」と誤解される可能性があります。
残業の必要がなければ定時に帰宅しても構わないところを、社内の誰も帰らない雰囲気が定着してしまうと、あとから入社した人が誤解してしまいがちです。
誤解のないよう前もって十分に説明することや、チームによってノー残業デーを設けるなど、現場管理者が率先して帰宅しやすい環境づくりをする工夫や取り組みが大切です。

サービス残業を助長するリスクがある

みなし残業時間を超える残業が発生した場合、超過分の残業代は別途支給されることになっています。
しかし、規定時間以上は残業を申告できないといった誤ったルールが認識されてしまうと、サービス残業を促進してしまうような事態になりかねません。
このような誤認がトラブルを招く原因にもなるため、会社側の徹底した残業把握と対策が必要です。

みなし残業時間の超過分の未払いトラブル

みなし残業制を導入してたとしても、みなし残業を超過した分には割増賃金が支払われます。
ところが、これが認知できなかった場合、未払いの残業代が蓄積されて訴訟問題に発展するケースも少なくありません。
特に未払い残業代に関する訴訟は、1人の従業員に起こされると、あとに続いて他の人たちも訴訟を起こす可能性があり、結局、多額の未払い分を一度に支払わなくてはならない事態に発展します。
それどころか、遅延利息や付加金が上乗せされて、ときには会社の経営そのものが立ち行かなくなるケースもあるため注意が必要です。

勤務先に未払いの残業代を請求するには?

もし、みなし残業制によって超過分の給与未払いが発生していた場合、どのような行動を起こせば残業代を支払ってもらえるのでしょうか。
ここでは、未払いの残業代を請求する方法について解説していきます。

勤務先と話し合い交渉する

勤務先の上司に、みなし残業の超過分の残業があり、且つ残業代の未払いがあることを伝えて、支給してもらうように交渉します。
その際、残業時間が正確に記録されたタイムカードや業務日報などの証拠などを提出できるように準備しましょう。
話し合いで解決しない場合は、「内容証明郵便」で会社に請求書を送付します。
「どんな理由で、いくらの残業代が支払われていないためにその超過分を請求する」と、具体的な理由と請求額を記載します。

労働基準監督署に相談する

会社との交渉を1人でするのが不安、自信がないといった場合には、労働基準監督署に相談するのもひとつの手です。
個人情報を特定されずに、会社への未払い請求ができるようになります。行政が一緒に働きかけてくれるため、対応してもらえる可能性も高まるでしょう。

ただし、企業によっては、定時にいったん退勤のタイムカードを押させてから残業させるなど、悪質なケースも存在します。
このような行為が横行している、常態化しているような勤務先であれば、労働環境の実態そのものを組織的に隠匿していることになります。
企業の違法性を感じたら、すぐに労働基準監督署に相談・報告するようにしましょう。

これらの方法でも残業代が支払われない場合、労働審判を起こすという手段もあります。
一般的な民事裁判は、解決までに年単位を要する長期戦ですが、労働審判は申し立てから審理が終結するまで平均2か月と早期解決が期待できます。

働き方改革に伴う法改正で、従業員の残業時間の上限が設定されました。そのため、みなし残業制度を導入する企業が増えてきています。
みなし残業は、企業と従業員にとってメリットのある制度です。
ただし、デメリットやリスクも存在するため、しっかりと理解した上で就職先を探す目安にしてください。
転職したい先でみなし残業制がとられている場合は、雇用契約書にみなし残業に関する条件が明記されているか、正しく設定されているかを確認するようにしましょう。